「万里の道も一歩から」と言うように、数と種類の多い茶道具も、まずは身近なところから見ていこう。幸いにも、愛知県は陶磁器の産地。ここ、愛知県陶磁美術館で、愛知ゆかりの瀬戸焼や常滑焼の質感に触れるだけでも、お茶の楽しみはぐんと増えるのだ。

愛知県陶磁美術館が建つのは、名古屋の東部にある猿投山の麓。深い緑に覆われたなだらかな丘と瀬戸の街を一望することができる。この猿投山の麓を含む周辺地域には、実は、愛知県内で古代から続く瀬戸焼と常滑焼のルーツとなる猿投窯があった。瀬戸焼は濃い茶色や淡い黄色をはじめ様々な色の釉薬を使った器が多く、常滑焼は、鉄分の多い土を釉薬を掛けずに焼き締めるため、赤みが強く土っぽさが残る。雰囲気が違うにも関わらず、ルーツは同じ猿投窯というのもまた面白い。

常設展では、瀬戸や常滑を含む、古代から現代まで続く代表的な産地を中心に、陶磁器がどのように発展して行ったかを網羅している。時代とともに、色や形が変化していく様子から、その時々の流行や需要を垣間見ることができ、ファッションの歴史をたどっているような醍醐味がある。

また、茶の湯で使われる道具には、中国や朝鮮半島から持ち帰った器を参考に作られたものが多い。お茶会などでよく使われる「天目茶碗」も、元々は中国の天目山から禅僧が持ち帰った茶碗の形を真似て造られたものだ。現代でも、パリやミラノのファッションに憧れる人が多いことを考えると、輸送技術がまだそれほど発達していない時代、大陸から命がけで持ち帰った器の作陶技術やスタイルは、それは羨望の対象だったのだろう。

展示ではさらに、「見立て」の例をいくつか見ることもできる。「見立て」とは、別の用途で作られたものをお茶道具として転用すること。例えば、「高麗茶碗」は、朝鮮半島で日常的な食器だったものを、抹茶用の茶碗に「見立て」たもの。見立てには、普段気に留めることのない日常の道具に美を見出す美意識や、茶道具として転用する遊び心が詰まっている。普段の生活でも、見立てを少し意識して身の回りの道具を見てみるのもなかなか楽しいものだ。

一通り展示を回ったら、敷地内の茶室「陶翠庵」へ。愛知県内の作家が造った茶碗がリストされており、好きなものを選んでお茶を立ててもらえる。季節感や気分に合わせて器を選ぶのもお茶の醍醐味なので、せっかくならば、茶碗の写真を見ながら、ゆっくりと選んでみてほしい。

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