愛知県は、抹茶の産地だと聞いたら驚くだろうか。ここ愛知県西尾市は、全国の生産の2割弱を占める、知る人ぞ知る抹茶の産地だ。西尾とお茶の関わりは古く、文永8年(1271年)に実相寺(じっそうじ)を開いた聖一国師(しょういちこくし)が、境内にお茶の種を蒔いたのが始まりだと言われている。
実相寺は臨済宗という禅宗のお寺だが、禅とお茶には深い関係がある。というのも、留学先の中国から禅とお茶の種を持ち帰った栄西が、禅を広めるべく京都に建仁寺を建て、その修行にお茶を取り入れたことで、お茶も広まったからだ。ミネラルやカフェインが多く含まれるお茶は、当初、眠気対策や養生のための薬として重宝された。また、茶の湯に禅の哲学が少なからず見られるのも、こうした深い関係があるからである。
さて、西尾でお茶が産業として発展したのは、聖一国師がお茶をもたらしたずっと後の明治時代のこと。外国との貿易が活発化し、生糸に次ぐ重要な輸出品として、お茶に注目が集まってからだった。西尾では明治初頭に宇治からお茶の種と製茶技術を導入し、商品価値の高い高級茶の栽培を追求した。そして、大正後期から、抹茶の原料となるてん茶の栽培・製造が主になり、現在では、西尾で生産されるお茶の約96%が抹茶という、全国でも稀に見る抹茶の産地となった。
西尾市の茶畑の約半分が集まる稲荷山をぐるりと一望できるのが、ここ稲荷山茶園公園。茶樹(チャノキ)は常緑樹であるため、茶畑は一年中青々としているが、4月上旬には、茶葉を甘く仕上げるための覆いがかけられ、5月には、摘み子さんたちがお茶を積む様子が見られる。収穫の時期には、茶摘み体験ができる茶畑もあるので、興味のある方は、観光協会に問い合わせてみてはいかがだろう。