アートが生まれる海、瀬戸内海。
この空港にいまふたつのアート作品が展示されている。それぞれ国際線の北ウィングと南ウィング、入国審査手前のコンコースに展示されているため、どちらを目にするかは運次第。あるいはどちらも見られない人もいるかもしれないが、作品について紹介しよう。
中山晃子の作品「渦潮図(うずしおず)」は、液体の流動がもつエネルギーをテーマにした作品だ。古代の人に「国生みの神話(くにうみのしんわ)」のインスピレーションを与えたとされる鳴門海峡(なるとかいきょう)の渦潮(うずしお)。中山氏はその鳴門海峡の海面に現れる白波や渦潮を捉えた映像に、自身の「alive paining」を重ねていく。異なる密度や質感をもつ絵の具やインクが反応しあい、線を描き、渦巻く様を映し出した「流動する絵」。躍動する作品からは、まるで生命力をもった絵の具や泡が渦潮の一部になろうとするかのような情熱がほとばしる。
Rhizomatiks Research 真鍋大度 の作品「phase」は、瀬戸内海の波と関西国際空港に着陸する国際線のデータを可視化している。瀬戸内海の波は、その地点における地形や風、潮流の組み合わせで形や周期が大きく異なる。等間隔に並んだLEDは実際に観測した波のばらつきをベースに制御され、国際線の到着とともに出発してきた国の国旗色に光る。潮流と風を読みながらこの海を旅したかつての船乗りたち。現代に空を旅してここにたどり着いた私たち。点滅する光は過去と現在とを交わらせ、旅の動力について私たちに視点を授けてくれる。
どちらの作品も根底に流れるのは瀬戸内エリアという地域の特殊性だ。内海の上に浮かぶ700以上の島々。その穏やかな光景と、独特の地形が生み出す複雑な海模様は、これまでも多くの文学者や芸術家、旅人たちを魅了してきた。
残念ながらどちらのアート作品も鑑賞することもできない人もいるだろう。しかしながら瀬戸内海は近年、世界的にも有数のアートの宝庫でもある。瀬戸内国際芸術祭に岡山芸術交流。どちらも3年に1度の芸術祭ではあるが、一部の作品は会期中でなくとも見ることができる。JR関西国際空港駅には、現在、岡山芸術交流にも参加したライアン・ガンダー氏の作品、「Imagineering」も展示されている。ぜひ訪ねてみてほしい。