路地を散策すれば、神との暮らしが見えてくる。

カフェや土産屋が立ち並ぶ道から、一本奥に入ってみると、今も神様とある暮らしの片鱗を覗くことができる。

たとえば島には墓がない。神域の為、お墓を作ってはいけないという掟があるからだ。島の人の墓の多くは対岸の宮島口にある。

井戸を見かけたらぜひ近くで見てみよう。井戸にも、祭壇が設けられていることに気がつくはずだ。これは、この島に井戸を掘ってくれた誓真(せいしん)さんという僧侶を、神様として祀っているから。街の人たちは、今もこの水を、お茶を飲むときなどに汲み上げているという。

土産物屋で杓文字を多く見かけるのも、神の島ゆえ。土地を傷つけないということは、農業も発達しなかったということ。安定した産業がなかったこの島に、先ほどの誓真さんが、弁財天(べんざいてん)の持つ琵琶の形から発想を得て、杓文字づくりを提案したのだ。宮大工が多く、優れた木工の技術があったために、宮島にとってぴったりの産業となった。縁起物としても人気があり、今でも甲子園で広島の高校を応援するときにはこの杓文字が使われている。

島のおばあさんによると、毎年、暮れになると、井戸のしめ縄を掛け替え、神棚の幸紙(さいわいかみ)という宮島特有の紙を張り替える。少し前までは毎朝、鳥居の浜へ行って水を汲み、門前を清める「潮汲み」という習慣もあったという。

そして、今も年中、神社の行事がある。弓を射て邪気を払う「百手祭(ももてまつり)」、宮島にある七つの浦を巡り、神様であるとされるカラスに供え物をする「御島巡り式(おしまめぐりしき)」、若者たちが海の中に入り宝珠を取り合う「玉取祭(たまとりさい)」、大晦日の夜に行われる「鎮火祭(ちんかさい)」、海に浮かべた船の上で管絃を奏でて神様を慰める「管弦祭(かんげんさい)」。他にも、神様に花を献上したり、茶や舞を奉納したりする祭(まつり)があり、宮島の1年は厳島神社を中心に回っているといっても過言ではないらしい。お金もかかるが、島の人たちはそれぞれの行事を大事にしていると教えてくれた。

宮島は今も、神の島なのだ。

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