世界的なサイクリストの聖地は、かつては海賊の拠点だった。

瀬戸内しまなみ海道、通称しまなみ海道はサイクリストの世界的な聖地。ぜひ尾道で自転車をレンタルしてフェリーに向かってほしい。自転車と船はこの街の日常の光景。通学途中の地元の中学生やおじいさんが波止場で自転車片手に船を待っている姿に出会えるかもしれない。

尾道水道を渡り対岸の向島へ。さらに続く細い水路を進んだ先で船を降りると、道路の上にサイクリングコースを示すブルーラインが現れる。しばらくペダルを漕ぐと、やがて開放的な海の景色がひらける。次の因島へとかかる眩しいほどに白い橋。

しまなみ海道は広島県尾道市と愛媛県今治市の両岸と間にある大小6つの島々を繋ぐ自動車道だが、本州と四国を結ぶ他の自動車道と違って、島々を繋ぐ橋のすべてに徒歩や自転車で通行できる「生活道路」が併設されている。この「生活道路」、島々の住民が気軽に行き来できるようにと作られたのだが、結果的に世界中のサイクリストを魅了することになった。なにせサイクリングコースの3分の1は橋の上。空の上から瀬戸内海を見渡せる「空中散歩」が楽しめるのだ。

さてこのしまなみ海道が結ぶ島々だが、実は歴史的には日本最大の海賊、村上海賊(むらかみかいぞく)の拠点でもある。一見穏やかに見える瀬戸内海だが、狭い瀬戸ほど流れが早い。とくに島が密集するこのあたりは瀬戸内海の中でも岩礁が多く、潮が複雑で、船乗りたちを悩ませる海域だった。

そんな海域の地形と潮を熟知し、縦横無尽に活躍していたのが村上海賊。

一般的に海賊というと、船を襲い、金品を強奪するなど野蛮なイメージがあるが、村上海賊はむしろ海の秩序と安全を守るビジネスマンだったともいわれている。彼らは海に関所を設け、通行料を払ったものには、船の安全を約束する通行証を発行し、必要とされれば船の護衛や水先案内人を引き受け、戦国時代には大名から雇われて海軍として働くこともあった。国内外の高級品の流通を担う商人の顔も持ち、瀬戸内海の新鮮な魚介類を扱う漁業者でもあったという。商才だけでなく高い教養を持つ文化人としても知られ、独自の芸能も持っていた。


自転車で風を受けて走る時には、瀬戸内エリアを護っていた海賊たちにも思いを馳せてほしい。

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