小豆島は、香りの島。

土庄港に降り立てば、ごま油の匂いが空気に満ちている。これは160年も続く日本を代表するごま油の会社がこの島にあるからだ。海岸沿いを走れば、オリーブの木々が並び、収穫の時期にトラックとすれ違えば、荷台一杯に積まれた柑橘の匂いにうっとりすることもあるだろう。

他にもそうめんや醤油など、農業、加工品ともに食にまつわる産業の印象が強い小豆島だが、この島の物語は「石」から始めたい。小豆島は日本を代表する石の産地だったのだ。

話は400年前に遡る。当時、天下が統一され、江戸幕府が誕生すると、大阪城が再建されることになった。このとき、小豆島をはじめとする瀬戸内海の幾つかの島から大量の石が切り出された。小豆島の花崗岩は、光沢があり、加工しやすく、変色しない。大阪との距離の近さもあり、大変重宝されたのだ。

瀬戸内海の島には平地が少なく、山肌の至る所に巨石が剥き出しになっている。そこに鉄製のくさびを打ち込んで石を割る。大きな石を切るためには、石の目を読む技術が必要だ。こんなにも大きな石を誰が運ぼうとしたのだろうと思えるような天狗岩(てんぐいわ)にも、その印を見つけることができるだろう。

天狗岩まできたら是非、その上に続く山道にも登ってほしい。ちょっとしたハイキングができる道に、直径数メートルにも及ぶ割石(わりいし)がそこらじゅうに転がっている。なぜここまでの労力をかけた石が、こんなに大量に置き去りにされているかは謎だが、現場ではダイナミックな採石の名残を感じることができる。

石が船で大阪に運ばれたということは、そこに人の交流もあったということ。その交流から、さらに小豆島の産業が、生まれていったのだ。

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