塩と石があり、その次に醤油があった。

海辺の小さな地区に「醤の郷」と呼ばれる場所がある。小豆島はかつて400もの醤油の蔵元があった醤油の一大産地。今も、手作りの醤油を作っている蔵や佃煮屋があり、あたりには醤油の香ばしい香りが漂っている。

醤油づくりのきっかけとされるのが、小豆島にやってきた大阪城築城の採石部隊。彼らは醤油の原型となる味噌の上澄みを持っていた。諸大名がそれを調味料として珍重していることに興味を持った小豆島島民が、今の和歌山県まで作りかたを学びに行ったといわれている。

醤油の原料は大豆と小麦、そして塩。もともと小豆島は塩の産地として有名で、醤油づくりにもその塩を活かすことができた。また瀬戸内海の温かい気候は発酵に適しており、大豆・小麦などの原料も、当時から盛んだった海運業のおかげで手に入りやすかった。さらには天下の台所といわれた大阪とも距離が近く、出荷がしやすい。こうして、小豆島は醤油の一大産地になったのだ。

小豆島の島民たちは、伊勢参りの道中で出会ったそうめんづくりに興味を持ち、奈良まで何度も通って技術を習得して「小豆島そうめん」を生み出したり、歌舞伎に触れて自分たちでも農村歌舞伎を始めてみたりと、外からのものを積極的に取り入れて島の産業や文化にしてきた歴史がある。オリーブや、柑橘などの生産が定着して島の産業になったのも、この「やってみよう」の精神があったからかもしれない。

ところで、醤油には「白(しろ)・淡口(うすくち)・濃口(こいくち)・再仕込(さいしこみ)・溜(たまり)」の5種類がある。小豆島で作られているのは 「淡口・濃口・再仕込」の3種類。特徴的なのは、いまも昔ながらの杉樽(すぎだる)を使っていること。年明けから仕込みをはじめて、杉樽の中に流し込み、気温の上昇とともに発酵が促されるのを待つ。醤油蔵によって違うが、これを半年から3年ほど寝かせるのだ。

「機械生産の醤油は、指でつんと押してくるような味、杉樽の醤油は指の腹で優しく撫でくるような味わい」と、ある醤油蔵の方は教えてくれた。 見学させてもらえる蔵もあり、直接蔵元で醤油を買ったり、醤油をつかったスイーツを試したりすることもできる。是非、普段使っている醤油との味を比べてみてほしい。

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