「マンガは文化だ」
いまや、その言葉に違和感はないだろう。フランスでは第9の芸術とされ、ルーブル美術館が、絵画に並ぶ芸術に位置づけるほど。しかし日本では、マンガは「子どもが読むもの」「教育には百害あって一利なし」とされた時代が長かった。
そんななか、いち早く「マンガは文化だ」と断言した人物がいた。横手市増田出身の漫画家・矢口高雄である。
『釣りキチ三平』の作者である矢口は、横手市増田町狙半内(さるはんない)の出身。農家の長男として生を受けた彼は、幼少期から近くの狙半内川でヤマメやイワナを釣ったり、山で木の実や草の芽を摘んだり、生き物を捕まえたりして過ごしたという。それがのちの名作『釣りキチ三平』誕生につながる。釣りは魚と人間の知恵比べ。巨大魚や幻の魚に挑むドラマや、釣りを通して自然と人間の関わりを描くストーリーは新ジャンルのマンガで、アニメ化もされ、海外でも放映されるなど一世を風靡した。
押しも押されもせぬ人気漫画家となった矢口に、横手市側から「矢口先生の記念館を作りませんか」という相談が持ちかけられた。矢口はそれを聞き、こう答えた。
「ボクの記念館なんていらないよ。それよりこれから漫画家を目指そうとする若者や子どもたちが、マンガ文化を未来につないでくれるような施設を故郷に作ろうじゃないか」と。
世界中の人をわくわくさせる、次世代の漫画家をもっと誕生させたい。こうしてできたのが『横手市増田まんが美術館』である。現在、まんが美術館には矢口の思いに賛同した漫画家を中心に、国内外合わせて2020年現在で180人の原画計約40万枚が収蔵されている。その数、世界最大級。ここではとにかく、原画の展示、保存を重視している。ではなぜ、原画に重きを置いているのか。そのストーリーは後ほど語ることにしよう。