「レジェンド漫画家はたくさんいるけれど、誰に会いたいかと聞かれたら、私はやっぱり矢口高雄先生に会いたい」。そう話したのは、『東京タラレバ娘』など、少女マンガから少年・青年マンガまでジャンル横断的に活躍する漫画家・東村アキコ。その東村が尊敬してやまないのが、矢口高雄だというのは、ちょっと意外なような本当の話。
それを聞いた秋田県羽後町出身の漫画家・おおひなたごうが、矢口と東村を引き合わせ、それ以来親交が深まった。ちなみに東村アキコが矢口高雄を尊敬する理由は「圧倒的に画力が違うから」だという。
矢口高雄が「横手市にマンガ原画を集めた美術館を作っている。協力してほしい」と東村に要請したところ、「矢口先生がおっしゃるなら、そりゃもちろん、ワタシ、なんでもやりますよッ!」と東村は答えた。東村アキコが作家デビューした1999年から約15年かけて書きためた原画15,000点のすべてがここ、まんが美術館に収蔵されているのはそういうわけなのだ。
日本のマンガ表現は世界最先端ともいわれる。その原画の数々が、未来の漫画家となる子どもたちや若者の感性に訴えかけるものは計り知れない。それだけにマンガ原画は非常に貴重な文化財なのだ。日本は、江戸時代、庶民の娯楽であった浮世絵が欧州でアートとして高く認められたことに無防備で、貴重な文化財である版画を版木(はんぎ)とともに国外に流出させてしまった歴史がある。マンガでは浮世絵の二の轍を踏まない。そのためにも、マンガ原画を貴重な文化財として守り、マンガ文化を未来につなげるという重要な役割を果たす拠点が、まんが美術館なのだ。
東村アキコのように矢口の思いに賛同した漫画家や、マンガ文化に貢献しようという思いを持った漫画家、出版社が、原画をまんが美術館に寄せた。2020年現在でその数は国内外合わせて、なんと180人の原画計約40万枚。その膨大な数のマンガ原画を収蔵しているのが、次にお連れするマンガの蔵である。