この内蔵の脇には、主屋から連続する「通り土間」が設けられているものが多い。この蔵の駅の建物も、通り土間があり、表通りから屋敷の裏や外蔵(とぐら)へ抜けていくことができるようになっている。このように主屋・内蔵・外蔵を「トオリ」と呼ばれる土間で結ぶ造りは、増田独特のものだ。
この通り土間は住民にとっての生活空間であるのはもちろんだが、近所の人も行き来することのできる空間でもあったという。かつては家族で朝食をとっている脇を、よその人が「おはよう」などと言いながら、表通りと屋敷の裏や外蔵(とぐら)へ抜ける近道として自由に行き来していた時代もあったというから驚きだ。通り土間は「内であるが、外でもある」という、ちょっと不思議な中間領域だったのだ。この「蔵の駅」の土間は、冬場には隙間から雪が降り込み、「白いご飯の上に白い雪が降った」という逸話も残っており、名実ともに、「内であるが、外でもある」という通り土間の性質を表すエピソードである。
蔵の出入口の引き戸を開け閉めしてみると、キュルキュルとびっくりするほど大きな音が出る。これは何も、蔵が古いからとか、ときを経て建てつけが悪くなったからではない。新築時からわざとこのキュルキュルという大きな音が出るように作られているという。これは音で人の出入りを感知するための当時の人々の工夫。このキュルキュルという音は、今でいえば玄関のチャイムであり、防犯対策でもあったのだ。