天井のほうに目をやると、蔵の立派な梁が見えるだろう。ここの梁は樹齢500年以上の秋田杉を使用しているとされている。現代ではこれほど太く立派な木材はそう手に入るものではない。
よく見ると、この梁に、破魔矢とわらじが棟札と一緒に貼り付けられているのが見えるはずだ。わらじの鼻緒をよーく見てほしい。鼻緒がぶつっと切られているのがお分かりいただけるだろうか。
これは工事が終わるとき、棟梁が自分が履いていたわらじの鼻緒を切って梁にあげたもの。諸説あるが職人が自分の持てる最高の技術でこの蔵を造ったから、修理のためにここに来ることは二度とないという棟梁の粋なメッセージだとも伝えられている。「もうこの蔵に来るためのわらじはいらねぇよ」といったところだ。
増田の蔵はこれまで長い月日と数々の震災を経てなお、当時の姿を現在の私たちに伝える。鼻緒を切って梁にあげた棟梁の、得意げな顔が浮かぶようではないか。