ここでは垂れ幕としてしかご覧に入れられないのが残念だ。大松明を写したこの垂れ幕は、高さ15メートル。しかし実際の大松明は、なんとその倍の30メートルの高さを誇る。重さは約10トン。天井の高いこの展示ホールでも、とてもではないが実物は展示できない。

日本三大火祭りのひとつに数えられる能登島向田の火祭は、毎年7月の最終土曜日に能登島向田町で行われる。祭りの夜になると、伊夜比咩神社から神輿と大小7基の奉燈が大松明のもとへ繰り出される。神社から、神輿の提灯にともされた御神火は、神主から壮年団長へ、団長から地元住民や参加者の手松明へと、ともされていく。

手松明は、竹と麦わらで作られている。長さは約1.8メートル。火が消えないように、参加者は一定のリズムでこの手松明を回しながら、大松明の周りをぐるぐると歩く。その輪は徐々に縮まり、大松明へと近づいていく。団長の「かかれ!」のかけ声をきっかけに、一斉に手松明が大松明へ向けて投げ込まれる。すると、たちまち炎が燃えさかり、巨大な松明を包んでいくのだ。

燃えた大松明が山側に倒れるとその年は「豊作」になり、海側に倒れると「豊漁」になると言われている。松明が倒れるとすぐに、その先端に取りつけられた「御幣」の争奪戦が始まる。この御幣を持ち帰り、家の神棚に飾ると幸福がもたらされるという。

古来「オスズミ祭」と呼ばれた納涼のこの祭りは、準備の方法が一風変わっている。子どもたちが学年ごとに組を結んで、それぞれ役割を担って準備に当たるのだ。この風習が注目され、能登島向田の火祭は石川県指定無形民俗文化財となった。小学4年生と5年生の組の名は「カマヒバシ」、6年生と中学1年生は「フジキリ」、中学2年生は「マーカイ」、中学3年生は「ハヤシカタ」と呼ばれる。奉燈は、この組ごとに分かれて担がれる。それぞれの組が重要な役割を担っていたが、現在では少子化が進み、その多くを青年団が担当するようになった。

それでは、本物の火はつけられないが、手松明を持って大松明に点火する体験をしてみよう。

Next Contents

Select language