狭い町の間を巨大な「でか山」がすり抜けていく様子を体感できただろうか? 「でか山」が運行する道筋には、約90本の電柱が立っている。通常は、地上から10メートル前後のところに電線を張るが、この場所だけは特別だ。「でか山」が下をくぐれるように13メートル以上の高さに張られている。そんなことなら、電線を地中に埋めて、電柱を取り払ってしまえばよいと思われるかもしれない。しかし、あえてそうしない。電柱すれすれのところを上手くかわしながら運行するのが「でか山」の醍醐味なのだ。

巨大な「でか山」には、舵もブレーキもついていない。90度進行方向を変える「辻廻し」のときには、約7メートルの大梃子を使う。この大梃子の上に、10数人の若衆が乗って「てこの原理」によって前輪を浮かび上がらせる。前輪が浮いたところで、垂直に取りつけられた地車を降ろし、「でか山」を「ぎしり、ぎしり」と回転させるのだ。

大きな方向転換ではなく、電柱を避けたり、クランクを曲がったりするときには、どうするのだろうか? こんなときに活躍するのは、中梃子や脇梃子などの梃子衆だ。「後見」と呼ばれる役の指示のもと、梃子を「でか山」の車輪の下に潜り込ませ、横滑りさせて方向を変えていく。後見になれるのは、長年、梃子を操ってきた人だけだ。サッと、梃子をかけ、左右に現れる電柱を次々にかわしていく。そんな様子は見ていてとても爽快だ。「うまいぞ!」と声がかかる。

ブレーキの代わりとなって「でか山」を停止させるのは止梃子の役割だ。止梃子を操る人は、直径約2メートルの車輪に正面から立ち向かっていく。まさに命懸けのポジションだ。止梃子という役割は、いざという時には身を守るために飛び上がり、民家の玄関先のガラスを割ってでも飛び込む程の覚悟と身軽さがなくては務まらないという。

祭りに参加したときには、ぜひとも曳き手に加わっていただきたい。観客の力も合わせなければ、この巨大な「でか山」は前に進まない。曳き手に加わって綱を持てば「でか山」の重さをずっしりと体に感じるだろう。曳いても曳いても、びくともしないように思えた「でか山」が、あるときふいに動き始める。その瞬間、まるで自分一人でこの巨大な「でか山」を動かしたような達成感が得られる。

しかし、当然ながら「でか山」は一人の力では動かない。「でか山」を動かすには、大勢の力と、統率のとれた人と人との関係が必要だ。電柱をかわすにも、梃子と後見の息があっていなくてはならない。祭り当日の阿吽の呼吸は、日頃からの付き合いによって培われている。

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