花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに

これは『百人一首』にも納められた、小野小町の和歌の代表作です。

「美しかった花の色は、なすすべもなく色褪せてしまう。長雨(ながあめ)がしとしとと降るのを眺めている間に。私の女として美しさも、時は経ち古びてしまったのだ……」

小野小町は、一説には仁明天皇(にんみょうてんのう)に仕えた更衣だったと言われています。更衣とは、天皇の衣替えなどを担う女官のことです。帝のそば近くに仕えるため、后(きさき)の一人として愛されることもありました。

仁明天皇に愛された絶世の美女。しかも和歌の才能に秀でている。小町の「美女」「才女」という伝説は後世にも広く伝わり、数多くの伝説が生み出されました。美と才能で多くの男たちをもてあそんだ高慢な女。結局、恋は実らずに孤独な晩年を送り、老いぼれて醜く放浪の果てに死ぬ、悲しい最期……。

しかし、実際の彼女の存在を裏付ける歴史的な史料は、ほとんど残っていません。数多く残る伝説は、それぞれに異なる女性像を思い起こさせます。

さて、この随心院は、仁明天皇の死後、宮仕えを終えた小町が余生を送った場所と言われています。この随心院で彼女にまつわる名所を巡った後には、あなただけの小野小町という一人の女性像が浮かび上がってくるでしょう。

まずは伝説のひとつを、彼女自身に語ってもらうこととしましょう。

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