夏に随心院を訪ねたのなら、その庭に咲く青紫の花に目がとまることでしょう。ぷっくりとふくらんだつぼみのようなその花は、桔梗の一種です。桔梗といえば、星のような形にひらく五枚の花びらが印象的な花です。しかし、随心院の庭に咲くこの花は、花びらを閉じたまま、ひらくことなく朽ちていきます。それはまるで、ただひとつの恋も報われないまま、生涯を閉じた小野小町のよう。この桔梗は「小町桔梗」と呼ばれています。
絶世の美貌と、飛び抜けた和歌の才能。時を超えて嫉妬され続けた彼女は、高飛車で冷たい女性だと思われてきました。でも、本当にそうだったのでしょうか?
ひらかずに終わった恋。その思いを歌った彼女の和歌は、現代の私たちの心にも刺さります。小町に恋をした平安時代の男たちは、ただ彼女の美しさに惹かれたのではなく、彼女の才能とその情の深さに心を奪われたのかもしれません。
そんな彼女の詠んだ和歌を、おみくじとして忍ばせました。小町の恋心が、時を超えてあなたの恋の後押しとなりますように。
ON THE TRIP 編集部
企画:志賀章人
文章:野原海明
写真:本間寛
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。