石灯籠は、飛鳥時代に仏教と共に大陸から日本に伝えられました。奈良県の當麻寺(たいまでら)にあるものが日本最古と言われています。もともとは、仏様に神聖な火を献上するためのものでしたが、戦国時代になると、寺や神社だけではなく、庭園にも置かれるようになっていきます。古びた石灯籠を庭にしつらえる流行を生み出したのは、千利休だと言われています。
江戸時代の茶人らが名物と呼んだ石灯籠の多くは、鎌倉時代に造られたものです。この「般若寺式石灯籠」は、10種類ほどある「名物の灯籠」のひとつとして大変評判が高く、多くの模造品が作られました。当然ながら、奈良市の般若寺にある石灯籠が最古のものだと考えられてきましたが、その説は昭和53年(1978年)に行われた調査で覆りました。調査に当たった石造美術研究の権威・川勝政太郎(かわかつ まさたろう)博士により、この椿山荘庭園にある石灯籠こそが「般若寺式石灯籠」の最古の原型であると判明したのです。
般若寺の石灯籠と、椿山荘の石灯籠。そのふたつに施された彫刻はほとんど同じ図柄です。しかし、椿山荘の文様がのびのびとしたオリジナリティを感じさせるのに対し、般若寺のものは、模倣をしたための萎縮を感じさせると博士は言います。例えば、椿山荘の灯籠に刻まれた孔雀は、その片足が枠線を越えて自由に延びているのに対し、般若寺の孔雀の足は几帳面に枠の中に収まっているのです。椿山荘の石灯籠は鎌倉時代後期に作られ、現在般若寺にある灯籠は江戸時代初期に作られた模作と考えられています。
さて、茶道では、石灯籠は暗い木陰に置くのが良いとされました。さらに、周りの木々で隠してわざと灯籠全体が見えないようにします。すると、石灯籠がまるで深い山の中に建つ小さな庵のように見えてくるのです。庭園という限られた空間で、大自然を感じさせる。何気なく置かれた石灯籠が、私たちを幽玄の世界へと誘うのです。