フジタの壁画「秋田の行事」で秋の風景として描かれているのが、日吉八幡神社の「山王祭」だ。フジタがこの祭りを見たのは、1936年9月。踊りの舞台では「秋田音頭」を踊る女性たちの姿が描かれている。「秋田音頭」とは、リズムに乗せて即興でおもしろおかしいことを歌ったもので、祭りなどの余興として親しまれた民謡のひとつ。なかでも有名なのが「秋田名物、八森ハタハタ、男鹿で男鹿ブリコ〜♪」と秋田名物を並べた歌詞だ。現在の山王祭では残念ながら秋田音頭は歌われないというが、秋田県民にとっては今でも馴染み深い一曲である。

フジタが見た山王祭は、歌あり、踊りあり、屋台ありのみんなが心待ちにする祭りだった。しかし、フジタが見学した翌年の1937年には日本と中国の戦争が拡大。祭りは規模を縮小、余興は廃止された。フジタが描いた祭りは、戦前最後のにぎやかで盛大なものだったことになる。

現在、日吉八幡神社では春のお祭りは神事のみ、秋のお祭りは9月15日に近い金・土曜日の2日間行われていて、当時のにぎわいを今に伝えている。

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