「ジョヤサ!ジョヤサ!」
勇ましい掛け声とともに、男たちが梵天と呼ばれる装飾を施した長さ3メートルもの木の棒を担いで鳥居をくぐっていく。太平山三吉神社の三吉梵天祭だ。小正月の行事で、町内ごとに先を競うように梵天を奉納するこの祭りは、梵天をかついで町内を練り歩いたあと、道中を祓いながら集団で神社を目指す。ほら貝を轟かし、三吉節と呼ばれる独特の節まわしの唄を響き渡らせながら神社に近づくにつれて、大きな押し合いの渦となっていく。

戦時中は中止となった祭りが多かったなか、力と勝負の神として知られる三吉さまを祀る梵天祭は、むしろご利益にあやかろうと奨励されたという。けんか梵天の異名も取る梵天祭は、今でも時おり救急車が出るほど激しい祭りだが、当時の活況は今以上のものがあったはずだ。

壁画のなかでもとりわけ躍動感を感じさせる、梵天祭。フジタは「秋田の行事」制作中にこの祭りを見学し、壁画に描き入れた。その力強い筆致は地元の人々にとっては誇りだという。

人口減少に伴い、全国的に祭りが減っていくなか、地域の人々は美術館の絵を見るたびに「この祭りを後世に残そう」と思うそうだ。祭りは、昔から人と人を結びつけ、地域をつなぐ力があった。そうした思いが繋がれているおかげで、現在でも1月17日の祭りでは70本もの梵天奉納を見ることができる。

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