1996年8月、日本初のヴェネチアン・グラス専門美術館として箱根仙石原の地に箱根ガラスの森美術館が開館した。

美術館からは、白い煙を噴き出す大涌谷がよく見える。このロケーションが、仙石原を選んだ決め手だった。大昔に火山が噴火し、溶岩が流れ出て、大地の成分と混ざったことで、偶然にもなにかキラキラしたものができた。それが、ガラスの起源という説があるそうだ。また、火で熱することで千変万化に形を変えるガラスは、「炎の芸術」ともいえる。箱根の象徴である大涌谷はガラスの起源、そして炎の芸術の象徴でもあったのだ。

美術館に一歩足を踏み入れれば、そこは水の都・ヴェネチアの貴族たちが優雅に過ごした館を思わせる、別世界。大自然に囲まれた庭園で耳を澄ませば、川のせせらぎ、木々のざわめき、鳥たちのさえずりなど、四季折々に心いやす「音」を聞くことができる。

アーチの橋を渡った先にある美術館では、16世紀から20世紀に作られたヴェネチアン・グラスの名品の数々が鑑賞できる。なかには、現代のガラス職人が何人も同じものを作ろうと挑戦したが、誰一人として成功しなかったという超絶技巧の作品もある。

オープン当初から館長を務めている岩田正崔氏は、たくさんの人々に愛される美術館を目指し、さまざまな取り組みを行ってきた。岩田氏のアイデアから生まれた、約15万粒のクリスタル・ガラスがきらめくクリスマスツリーは、2013年、あるインターネットサイトが行った「一生に一度見ておきたいクリスマスツリー」の投票で2位にランクイン。もともと仙石原は静かな別荘地で冬になると閑散としていたそうだが、今ではこのクリスマスツリーを目当てに、紅葉の時期と変わらないほどのお客さんが訪れる。

岩田氏は、蒸し暑い夏にもお客さんに音で涼を届けようと、ヴェネチアでガラスづくりを学んだ日本人ガラス作家に、オリジナルデザインの風鈴をオーダー。ヴェネチアン・グラスの息吹を感じさせる風鈴は、風が吹くと涼しげで、心地よい音を響かせる。耳をすませばそこはもう、水の都ヴェネチア。

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