占い合う、と書いて「うらない」。おみくじのようにして神話占合を引くと、日本の神話の一場面と、そこから読み取れるメッセージが記されている。

というのも、日本は神話がそのまま継承されている国。ぼくたちのDNAをずっと辿っていくと、神話の時代に辿り着く。だからこそ、占い合う。今の自分と神話から受けたメッセージを照らし合わせることで自分の何かが響き合う。あるいは、人は自らが占いに合わせにいっているのかもしれない。それが伊勢神宮のある地ならば、なおさらだ。

あなたにはどんな言葉が響くだろう。その日の自分と不思議とぴたりと合う言葉。その金言こそが宝物。3つのキーワードにある渦巻きのような模様は勾玉で、勾玉には異質の二者の合体によって新たな命が生まれるという意味もあるという。あるいは、宇宙がそうであるように、何かが生まれるときには渦が巻く。あなたの心にも思いがけない渦紋が巻き起こるかもしれない。

メッセージの意味がわからないと思ったら、お店の人に尋ねてみてほしい。その交流が生まれたとき、語り合う言葉がどんなふうに響き合うのか。その体験もまたここでしか得られない宝物になることだろう。

神話占合をきっかけに伊勢 菊一にあるものを見渡してほしい。そこにある物、ひとつひとつに伊勢神宮にまつわる物語が詰まっている。伊勢 菊一は、伊勢神宮の旅のはじまりにふさわしい場所。必ずやあなたが伊勢神宮と深く出合うきっかけとなるだろう。

「伊勢 菊一は刃物屋じゃないの? どうして神話占合を?」代表の山本武士さんに尋ねてみると、元は刃物屋として先代のご主人が95歳まで続けていた店「菊一文字本店」。しかし、いよいよ後継者がいなくなり、山本さんが声をあげた。その話し合いのとき。「建物を残して外宮の案内ができる場所にしたいと言うつもりが、話しているうちに、刃物屋としても残したい、と自分から口に出していた」人生にはそうして何かに導かれるような瞬間がある。そこで、山本さんは刃物屋もやる、もちろん外宮の案内もやる、そう伝えた上で菊一を受け継ぐことになった。

「結果、やってよかった。研ぎに、買いに、たくさんの地元の人がくる。このまちに必要な店だったとあらためて思った」と山本さん。刃物は使えば使うほどすり減っていく。一本の刃物を大事に使っていると、切って、研いで、を繰り返しているうちに驚くほど小さくなるのだ。まるで鉛筆を最後まで使い切るみたいに。そんな刃物はその人にとっての宝物。たとえば、結婚するときに「これから料理をがんばってね」と贈られた包丁。もしかすると、あなたのプレゼントがその人にとっての「おたから」になるかもしれない。

また、外宮には天照大御神の食を司る豊受大御神がまつられている。食の神様だから全国の板前もやって来る。そして、この場所で料理人生の一本目を買っていったりする。先代のご主人はこんなことを言っていたそうだ。「お客さんはうちの店に来ているんじゃない。伊勢神宮に参拝に来た人がたまたま寄ってくれている。だから、うちのお客さんである前に神様のお客さん」そう考えると接客や商売も誠実でなくてはいけない。その想いは現在も受け継いでいるという。

そんな先代のトレードマークは剃り上げた頭にベレー帽。朝、店を開ける前に必ず帽子を取って外宮に向かって深く礼をする。店じまいのときもそう。それに外宮の向かいにある郵便局から出てきたときも、外宮に向かって当たり前のように美しい礼をしていたという。「誰が見ている見ていないは関係ない。これが本物だと思った」と山本さん。

地元の人ならではの美しい参拝を目にした瞬間も宝物。いつか自分も誰かの記憶にそんなふうに刻まれるような美しい参拝ができるといいな。そんなことを思いながら、次のおたからを探しにいくのであった。

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