まるでプリント柄のように細かく、刺繍のように糸が立体的に浮かびあがる生地。
高級ホテルのカーテンやベッドカバーを手掛けるアルルが研究に研究をかさねて手に入れた、織りの技術だ。
ヨーロッパのように良いものを作りたい。
その思い一筋で、文化も歴史も違うヨーロッパに飛び込んだ。
「体験」をもとに作られたテーブルランナー。
一つ一つに動きをもたせた花柄も、複数の色を組み合わせた葉の色も職人とのひらめき、センス、そして経験から。
それを体験したとき、私たちの生活はどう変わるのだろう。

体験を、研究して超えていく

株式会社アルルが手掛けるのは、主にカーテンやベッドカバー、テーブルランナーなどのインテリア生地。服飾などに比べて、インテリアでは「持ちうる限りの織りのテクニック」をあえて見せる、と社長の早川明久さんは語る。それは、日本が障子や畳だった時代から、ヨーロッパで培われてきた貴族文化の名残だ。

日本中の高級ホテルから依頼が殺到するアルルの技術は、一長一短で培ったものではない。経糸にも横糸にも何色もの糸を使う「多色高密度」や、「乱留め」と呼ばれる立体感を出すための技術は、同じ図案を織ったとしてもアルルには敵わないだろう。ここまでの技術を手に入れるまでの道のりは長かった。

始まりは、早川さんが1980年代にドイツで受けた衝撃。もともと寝装関連の織物を請け負っていた早川さんが、取引先に「これからはインテリアだから」と、ドイツでの展示会に誘われたのだ。家具や家の造りも洋風が増え、和の文化が下火になってきた頃、何か新しいものづくりのヒントになれば、と参加した。

ヨーロッパの有名なメーカーのものを見て、衝撃を受けた。「こんな織り、よくできるな。一体どうやっているんだ?」という技術に目を見張ったという。特に衝撃的だったのが、経糸に8色、横糸に6色を使った、立体感のある生地だった。今まで見てきた、どの織り物とも違う。サンプルを買い漁り、帰国後に模写しようとしたができなかった。技術の差が歴然だった。

そこから、早川さんの研究が始まった。暗中模索のなか、早川さんの心にあったのは「いいもの作りたい。ヨーロッパでできて、なぜ日本でできないのか」という想い。

まずは、デザインをどのように糸で表現するかの設計図にする「意匠屋」と呼ばれる職人探しから。岐阜や京都など織物産地を回り、桐生にいたある職人を見つけた。同じ柄を依頼した他の職人たちと、戻ってくるもののクオリティが全く違う。この人となら――そんな確信が、早川さんの中で生まれた。現在、アルルの商品の90%以上の設計をこの意匠屋が担う。経糸に横糸をどう絡めるかによって立体感や繊細な柄を生み出していく、彼の技術なしではアルルの織物は完成しないと早川さんは話す。複数の色、太さ、素材の違う糸を駆使しながら、早川さんと意匠屋の二人三脚で、アルルの商品は生まれている。

早川さん自身も何度もヨーロッパに足を運び、さまざまなホテルに宿泊。その生活を体験することで、インテリア生地ならではのコーディネート性や自身の感性を養った。「体験」したことを研究する、その繰り返しでアルルは技術を高めている。初めての衝撃からおよそ40年。今のアルルには、ヨーロッパに負けない技術がある。それだけでなく、オリジナルの糸を作るなど研究心が尽きない。

家の中に、華やかなテーブルランナーがある暮らし。ヨーロッパの貴族文化を体験し、研究し尽くした末にできた商品だからこそ、その一品だけでも高級ホテルのような「体験」ができるはずだ。

Next Contents

Select language