トラディショナル。
織物業界で「トラッド」と呼ばれるその雰囲気は服装にこだわり始めた若者から、お気に入りのある年配の人まで幅広い年代の“ネクタイ好き”を魅了する。
なめらかな手触り、安心感のある厚み、堅牢な作り。
間違いのない技術、間違いのないデータの蓄積。
クールビズでネクタイをする機会が減っていく?
それなら尚更「欲しい人」に、届けたいネクタイがここにある。

思いつきでは作らない、トライアンドエラーの先にあるブランド

「うちが今できる、一番かっこいいものを集めたのがTORAWです」と、渡小織物の3代目、渡辺太郎さんが胸を張る。ブランド名の「TORA」はトラディショナルが由来となり、伝統的な織物が得意な渡小織物が作るネクタイだからこそだ。また、渡辺さんの下の名前「太郎(TAROW)」の母音を入れ替えて「TORAW」としたアナグラムにもなっており、渡辺さん自身が本当に良いと思ったもの、恥ずかしくなく世に出せると確信したものを集めたのがこのブランドだ。

渡辺さんは、すぐに家業を継いだわけではない。サラリーマンとして数年勤務したのちに渡小織物に入社。父親の指導のもと10年ほどは工房で機織りに従事した。「とにかく織れ」と言われる中で、「売れないものを織ってもしょうがないのに」と思っていたというその感覚は、サラリーマンをしていていなければ身につかなかったものだ。「織れば売れる」の時代を過ぎてしまったハタオリマチの織物屋には、新しい風が必要だった。

自社ブランドを作ろうと父を説得し、父子で渡小織物にしかない強みを探した。その答えのひとつが、生地の厚み。ネクタイは着用時に結ぶため、絞るところはどうしてもシワになる。ところが、渡小織物の密度の高い生地は、かけておけばまた元の形状に戻っていくほどにしっかりとした作りをしている。「ネクタイの締めやすさは、ちょっとした厚み。厚ければ厚いほどいいってわけじゃない」と渡辺さんは話す。父親の培ってきた技術と、息子の新しい視点が組み合わさって生まれたのが、フラッグシップブランドTORAWなのだ。

2つの異なる生地を太めのストライプ状に縫い合わせた「022」シリーズは、TORAWの一押し商品。特にブラウンは、そのつけやすい色味のおかげもあり飛ぶように売れた。実はこのネクタイ、2年間はTORAWではなく渡小織物のなかで2つの柄をそれぞれ1本のネクタイとして商品化し、販売していた。そのなかで、お客さんの反応がよかった2本の生地をかけ合わせて「022」シリーズはつくられた。

TORAWのネクタイは、決して思いつきでは作られていない。渡小織物として多様な商品を販売しながらお客さんの反応を観察し、トライアンドエラーを積み重ねて生き残ったものが、TORAWのラインナップに組み込まれる。売れ行きを見ていると、職人が好きなものが売れるとは限らないこと、逆にそうでもないと思っていたものが売れることもあると気付く。みんなが買いやすいネクタイ、買いにくいネクタイがあるのだ。ネクタイ自体の幅、ストライプの角度、色合いなどを工夫し、お客さんが買いやすく、でもちょっとした奇抜さも忘れない。そんなデータをもとに、渡辺さんはネクタイをつくる。「OEMの時代と違い、渡小織物っていう名前、僕は自分の下の名前まで出しているからこそ、恥ずかしくないものを出したいんです」

以前は、ネクタイにもある程度決まった流行のサイクルがあった。無地の次は、ストライプ、柄物が人気になったら次は無地、というように。しかし、クールビズや仕事の多様化でネクタイをする人自体が減ったこともあり、そのサイクルも崩れ始めている。だからこそ、渡辺さんは自らデータを集めていく。実際にお客さんと対話して聞いたこと、実際に売れていくネクタイの傾向。それらを具現化していれば間違いない。

また、渡辺さんは一度作ったものは自分で1年間など長期に渡ってつけ続け、その上でいつまでも使いたいと納得したものだけをTORAWとして扱う。ストイックに厳選したものだからこそ、ネクタイ好きにぐっと来る商品が並んでいるのだ。「これを超える、ネクタイに出会えない」と、TORAWを買いに来たお客さんは話す。なめらかな手触り、安心感のある厚み、「トラッド」でいながら少し奇抜な柄。良いスーツにも負けない質の、ネクタイを求め、ネクタイ好きたちは下吉田の工房を訪れている。

クールビズや時代の流れで、ネクタイは必ずしも「必要」なものではなくなってきているのかもしれない。ただ、「その傾向は間違っていない」と渡辺さんは言う。ネクタイは無理につけるものではないから。だからこそ、「欲しい人」に届けたいネクタイが、ここにはある。

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