長月の(ハレ)てぃだやよー ゆぬくれど(ハレ)まちゅるよー


これから集落を1時間ほど散歩してみよう。これからガイドするのは秋名で有名な「アラセツ行事」をめぐる旅。といいつつ、いきなりまわり道。この旅ではまわり道を大切にしてほしいと思う。道中で地元の人を見かけたら「うがみんしょーらん」を使って話してみたり、道がわからなければ訊ねてみればよいのです。

ここで豆知識。奄美大島には秋名のほかに「阿木名」という場所もあるのだが、キナとは開けた土地のこと。これだけ広い田んぼがある風景は、まさに秋名というわけ。でも、本当は「アギナ」と発音する。ある時代に地名に漢字があてられたことで、音が漢字に引っ張られてしまっているのだ。だからこそ、奄美では「あいうえお」や「あかさたな」にはない「奄美の音」に耳をすませてみてほしい。

というわけで、最初に聞いてもらったのは「くさとり歌」。秋名は奄美大島でいちばん田んぼが豊かな場所。でも、田んぼを耕すのは大変な重労働。だから、歌を歌って気をまぎらわしていた。歌詞もまた「早く日が暮れて夜になってほしい、ああ待ち遠しい」というような意味。歌は掛け合いになっていて、こっちが歌えば、むこうも歌う。昔は、あちこちの田んぼからこの歌が聞こえてきたことだろう。その光景を想像してみてほしい。

秋名には「結(ゆい)わく」という言葉がある。わたしがあなたに、あなたがわたしに。賃金ではなく労働を「お互いさま」で交換する。人はひとりで全種目できないが、それぞれ得意なことがある。だからこそ交換し交流する。それに大勢は楽しい。10時、12時、15時のまかないご飯もいつも和気あいあいで、あそこの田んぼを手伝ったら肉のご馳走が出てきたゾ、なんてウワサ話も楽しみだったという。

しかし、今は機械化が進んでひとりでも田んぼができるようになった。便利になった反面、昔のような「お互いさま」が減って「くさとり歌」が歌える人も減ってしまった。それでも、年に一度の「アラセツ行事」はみんなで力をあわせる必要がある。「結わく」の心は、きっと秋名の人の中に生き続けていることだろう。

〜秋名こぼれ話〜

「くさとり歌」を歌ってくれたのはスガおばとトシコおば。現在の秋名で正確に歌えるのはこの2人しかいない。節まわしが秋名ならではの独特なもので、幼いころから歌い継いできた2人以外、誰も真似できないのだという。

そんな話を思い返しながら田んぼ道を歩いていると、遠くから呼ばれる声がした。振り向くと遠くで手を振っている人がいる。あらば食堂の森吉さんだ。「今度うちきてください!ご飯食べましょう!いっしょに!」ハリのある森吉さんの声がものすごい遠くから静かな田んぼ道を突き抜けてくる。「ぜひ!」と答えた自分の声は思ったより小さくて、ちゃんと届いたかどうかわからない。だから、ジャンプして手を振った。

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