部屋にあふれるのは壁から放水した真っ青なダムの水。ダムの水は室内の天井付近から壁をつたい、床までつづく。今夜、あなたはダムの水の中で眠るのだ。

この部屋は、人工の風景をモチーフに究極的にミニマルな立体作品を作る椋本真理子(むくもと・まりこ)による「ダム」の空間。幼い頃にダムを訪れた際に感じた、人間がつくる巨大な人工物に対する畏怖と感動。そこから始まったダムへの関心が、この部屋を手がけるきっかけとなっている。

公園の遊具などに用いるFRPという素材を使い、表現された無機質で平面的なテクスチャ。意思や生命が宿る木や石などの素材は使わずに、あえて人工的な素材を選んだ。単純化された色彩は、見るものにシュールでありながらも明るくポップな印象を与える。

部屋に設置された家具作品やオブジェは、ダムから見える山々、花壇の花をモチーフにしている。黒いイスは、突如としてポッカリと空くダム穴だ。ミニマルに表現されたオブジェたちを、「これは何だろう」と想像してみてほしい。入り口にあるスイッチで、照明を切り替えることもできる。間接照明だけのライティングに切り替えれば、夜にライトアップするダムの様子を楽しむことができる。

この部屋は、アーティストのダム愛が込められた部屋でもある。あなたはここまでダムについて触れ、ダムについて考えたことがあっただろうか。このオーディオを聞きながら、ついつい「ダム」を検索してしまったあなたは、すでにアーティストの術中にはまっているともいえる。ちなみに、アーティストの一番のおすすめは「宮ケ瀬ダム」である。

想像してほしい。あなたはダムに放水された水にぷかぷかと浮き、眠りにつくのだ。なぜだか不思議な居心地の良さを感じるだろう。極端に滑らかな虚構のダムの世界。この場所で、あなたは今夜、どんな夢をみるだろうか。

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