本部の民家は、この海洋博公園ができた1970年代に、近くに実在した民家を再現している。そしてここは宝物に囲まれている。屋敷の塀にそって生えているフクギだ。
なぜこの木が宝物なのか?それは、この木が人々の暮らしを守ってきたからだ。
フクギは地上の幹の高さと同じだけ地中に根を伸ばすため、風や塩害に強い。柿の葉のように分厚い葉っぱは、燃えにくいのでいざというときの防火壁にもなる。海に近く、台風の脅威に晒されてきた沖縄では、フクギを集落に植えることで家や畑を守ってきたのだ。
実はこのフクギが宝物とされるのには、もうひとつ理由がある。元々フクギは、300年程前に琉球王国が後の世代を想って植えた贈り物なのだ。
琉球王国は明治になって沖縄が日本と併合される前まで約450年間にわたって栄えた王国だ。そこで活躍した蔡温という政治家がいる。彼は中国の風水思想を取り入れながら、森林や地形を巧みに利用して、町を作り、防災の計画を立てた。備瀬のフクギ並木もその時代に植林されたものだ。
フクギは成長がとても遅いため、苗木を植えた先祖の人々はその恩恵には預かることはできない。それでも彼らはまだ見ぬ自分たちの子孫を守るために植林を始めた。遠い未来の人々を想って行動する。この精神こそが、沖縄の人々の宝物と言えるのではないだろうか。
もし時間があれば海洋博公園のすぐ近くにある備瀬のフクギ並木を散策してみてほしい。備瀬のフクギ並木は、目の前のフクギ達より更に年長者で、樹齢300年ほど。並木のあいだでは、海風は微かな葉のざわめきに変わり、雨はとどかない。そこに立って昔の人々の想いを感じてみてほしい。時を超えた大きな力に包まれているような感覚を味わえるかもしれない。