ここの魔物は、まっすぐにしか進めない

さて、地頭代の家に来た。地頭代とは琉球王国時代に各村で地方行政を担当した役人のこと。今でいう村長のような存在だ。その家の正面で、ひときわ大きな存在感を放っている宝物に気が付いただろうか? 正面の門と母屋の間に、ついたてのようなものがある。真ん中についている扉は、普段は開かずの扉なので、屋敷に入るにはこのついたてを迂回しなければならない。

この不思議なついたての名前はひんぷん。役割は家の目隠し、そして魔除けだ。目隠しは見てのとおりだが、魔除けとはどういうことだろう?

「まじむん」という言葉をきいたことがあるだろうか?「まじむん」とは、沖縄に伝わる魔物の総称で、股をくぐられたものは死んでしまうという迷信があるくらい恐れられている存在だ。しかし、この「まじむん」、直線にしか進めないという性質をもっている。それならば、直線を遮ればいい。そのための結界が、この「ひんぷん」なのだ。

「ひんぷん」はさまざまな材料で作られる。一枚岩だったり石垣や瓦を積んでいたり、生垣・板垣などの場合もある。ガジュマルの木をひんぷんに見立てた「ひんぷんガジュマル」がお墓や街中に立っていることもある。

おきなわ郷土村の他の家には石積みの「ひんぷん」があるのだが、この家のものは、石垣の壁の上にさらに赤瓦をあしらったかなり立派な造りだ。格の高い家だというのが一眼で分かるし、魔物も当たったら痛そうだ。地頭代の家は、中央からの使者をもてなすこともある。時には秘密の話もする必要があったため、人からも、魔物からも結界を必要としたのだろう。

Next Contents

Select language