人は家に3つの石を祀っている

続いてはノロの家に入ってみよう。宝物は台所のかまどにある3つの石だ。
これはヒヌカン。火の神様を祀っている。

なぜ3つの石なのか? 昔のかまどを思い浮かべて欲しい。石を3つ立てて、その上に鍋を置いている絵が浮かばないだろうか?

ヒヌカンを祀るのは、その家に住む女性で、場所は台所だ。古今東西、火の神様を信じている地域は多いが、一般の家庭の台所で、生活に密着している形で祀られているというのは珍しいかもしれない。沖縄に仏壇が誕生したのは後世のこと。それ以前、家を守る神は火の神だった。

今でも、家庭における重要な出来事は最初にヒヌカン、次に仏壇を拝む順序の家もある。ヒヌカンには、日常の頼みごと、心配事を話す。結婚のときにもヒヌカンを拝むし、出産のときに赤子が生まれたことをヒヌカンに報告し、鍋墨を頭につける習慣もある。受験の朝に、おばあさんや母親が、子どもの健闘を祈ってヒヌカンを拝む家もある。

昔はその家の女性が亡くなると新しいヒヌカンが用意された。ヒヌカンの身体となる3個の自然石を拾う場所は、海・川・畑など。人が踏んでいないようなところから拾う、あるいは石を運んでいる間は他人と一切口を聞いてはいけないというようなルールがあったところも多い。

かまどがガスコンロやオール電化に変わって、石そのものを祀っている家は少なくなってきたが、今でも香炉を置いて、ヒヌカンを祀っている家庭は多い。生命にとって重要な食や住を支える火。その力の偉大さを忘れず、日常の中で祀る習慣そのものが宝物と言えるかもしれない。

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