「本当に火事が出たって……やっぱり当たったね……」

流鏑馬祭りで馬が走った蹄のあとを辿り、その年の火事や争いごとを占う風習がこの町にはある。そのお達しが出ると、人々は『お日待ち』と呼ばれる会に集う。女性を中心に同じ地域に住む人々が集まり、その占いの結果を聞いて、御札をもらい、みんなで食事をするのだ。

家事や育児、商店街の店番などで忙しい下吉田の女性たち。なかなか集まれない彼女たちの話は「今年の火の元には余計に気をつけよう」という話題から、あっという間にご近所の噂話や相談事などに広がった。お日待ちを通して、この町のコミュニティは成立していくのだ。

そして、この町には消防署とは別に、地域の住民が主体となって成り立っている消防団がいる。持ち回りで消防団の役目を担い、火事の知らせがあれば、仕事中だろうと食事中だろうとハッピを着て現場へ飛び出していく。

あのときも、そうだった。あるとき、新世界乾杯通りで火の手が上がったのだ。

「新世界で、火が出たぞ!」

知らせを聞いた男たちは、飲み会の席を飛び出して現場へ向かった。長屋が多いこの町では、一箇所から火が出れば大惨事につながる。消防団経験者の男たちは、消火栓につながれたホースを手に火を消し、煤で黒くなっている人々を救助した。

この年、まさに新世界乾杯通りは「火事のお達し」が出た地域。人々は「やっぱり当たってしまった」と恐れおののいた。

幸い、怪我人は出なかったものの、一帯は真っ黒に。現在はリノベーションされた建物やお店が立ち並び始めた新世界乾杯通りでも、ある一部分では当時の状況が残っている場所があるという。

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