「あの、親分があっちで呼んでます」
多くの繁華街がそうであるように、西裏にはパチンコ屋も多かった。ほとんど当たることのないパチンコだけれど、ときどきの大当たりが癖になり、やみつきになる男は多かった。
あるとき、久々に出た大当たり! 忙しくしていたら、急に肩を叩かれた。
「親分が用があるみたいで、呼んでます」
この「親分」というのは、西裏界隈をまとめているヤクザのこと。このあたり一帯で顔を利かせている人だった。彼が、自分に何の用だろう?
なんの御用でしょう? と親分のそばへ寄ると「何もねえだ」の一言。
おかしいな、と席に戻る。あれ! あんなにあった玉が、ない!
「やられた!」と思ったものの、ヤクザの親分にイチャモンはつけられない。その日はしぶしぶ、手ぶらで帰ったのであった。