「ここはね、トタンの町なんです」

忠霊塔から富士吉田の町を見下ろすと、赤や青などカラフルな屋根を持つ家々が広がっていることに気付くだろう。この町では、瓦屋根の家はほとんどない。代わりに、ずっとトタンが使われてきた。

その理由は、急激な寒さにある。冬のマイナスの気温のなかでは、瓦は凍って割れてしまうのだ。現代でこそ、別の素材を使う建物が増えてきたものの、昔から残る建物はよく見るとほとんどがトタン製だ。富士吉田で「ブリキ屋」と呼ばれる商売が成立しているのは、トタンの町だからこそ。

トタンに注目して町を歩いてると、屋根だけでなく店の看板や建物の装飾まで、あらゆるものがトタンで出来ていることがわかる。一見、瓦やレンガ、木造のように見えても、実はトタンで作られているものが多い。トタン屋が独自の技術を磨いてきた証拠だ。

屋根の色に赤が多い理由は、実は誰も知らない。多くの流行がそうであるように、どこからか赤のトタン屋根が流行りだしたのだ。

多くはないものの、一斗缶の底をアップサイクルして壁に使っている建物もある。どうしてわかるかって? よくよく目を凝らしてみると、五円玉のように丸い一斗缶の模様がうっすら見えるからだ。

ちなみに、本町通りに面した『大星家具店』の壁はトタンの建物の現代版。建て替える際の材料にあえてトタンを選び、職人たちに組み込んでもらった。その折り込み方は、実はかなりの手間がかかっている。密かに、でもしっかりと、トタン町のDNAをみんなで受け継いでるのだ。

もちろん、月江寺の屋根も、下吉田駅もトタンでできている。富士吉田の町歩きで、一体何軒見つけられるだろうか。

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