ビールの成分の中でも、水は9割以上を占める。水の違いは、ビールの品質に直結するものだ。
その有名な例が、ピルスナーと呼ばれるビアスタイルの誕生秘話。ピルスナーは、1842年にチェコのピルゼンで生まれたビール。ドイツのミュンヘンのラガービールに興味を持ったピルゼンの醸造家たちは、ミュンヘンから醸造師を招待し、現地の酵母を使ってビールを仕込んだ。これで、ミュンヘン特有の濃い琥珀色のビールができるはず。そう期待していたピルゼンの醸造家だったが、完成したのは淡い色のビールだった。
失敗したかと肩を落とす醸造家たち。しかし一口飲んで、その口当たりの良さ、クリーミーな泡のきめ細やかさに驚くことになる。失敗ではなく、まったく新しい黄金色のビールが生まれたのだ。どうしてこうなったかというと、ミュンヘンの水は硬水だったのに対して、ピルゼンは軟水だったからと言われている。水質が違えば、ビールは大きく姿を変えるのだ。
ピルスナーはペールラガーとも呼ばれ、今では日本の大手メーカーをはじめ、世界中で親しまれるビールになっている。クラフトビアムーンライトの「多摩の泉」も、誰でも飲みやすい金色のペールラガー。その名前は、清らかな水が流れる多摩川の源流をイメージしてつけたという。日本の水は、多くが軟水。「多摩の泉」も、口当たりがやわらかく、まろやかな水のおいしさを感じられるビールになっている。
「多摩の泉」をはじめ、川崎を意味する「江戸前」、多摩丘陵に1200年ごろに築かれた城の名前である「枡形城」など、ムーンライトのビールは地域にちなんだ名前が多い。これは、ビールの名前を地元の人からの一般公募で決めているからだ。
ビール造りでは、機械を使わない欧米の伝統的な手造り製法を受け継いでいる。仕込みに使っているのは、5ガロン(19リットル)の小型熟成・発酵樽、ユニケグ。ユニケグは小さいので場所を取らず、一般的な冷蔵庫で温度管理ができるため、省スペースでさまざまなビールを造ることができる。実際、ムーンライトの醸造スペースはわずか3畳だが、定番ビールは10種類以上だ。
また、季節限定醸造のビールが多いことも特徴。地元の農家が作った多摩川梨、ブルーベリーなどの素材を預かり、本来の味を全面に引き出して造ることにこだわっている。特に多摩川梨を使った「多摩川の梨」という限定ビールでは、農家の人に土づくりから教えてもらい、その教えの一つ一つを込めているそうだ。
「ムーンライトは地元のお客様あっての醸造所。地に足をつけ、地域に愛されるビール造りを心掛けていきたい」、オーナーはそう思いを語る。地産地消に誇りを持ち、地域に根差すブルワリーだ。