そもそも、ワインとビールは重なり合いながら発展してきた存在だ。たとえば、多様性では世界一と言われるベルギービール。ベルギーでビールが発展したのは、涼しい気候でブドウ栽培ができなかったためワインへの憧れが強くなり、ワインのような味や香りをビールで表現したからとも言われている。
カノコビアのオーナーも、最初はビールよりもワイン派だった。ある時、ビールは自分で考えたレシピがあれば誰でも造れると知り、ワインのように香りも楽しめるビールがあったら面白いと思ってブルワリーを立ち上げたという。看板ビールは、鮮やかなヤマブキ色が印象的な「ヤマブキエール」だ。
小規模生産のクラフトビールは、同じレシピで造っていても毎年味が変わる。オーナーは、それもクラフトビールの魅力だと、軽やかに話す。そういえば、ボジョレー・ヌーボーもブドウの出来によって毎年評価が変わっている。自然の恵みが左右する味を受け入れ、素直に面白がること。それができると、楽しみ方がもっと広がりそうだ。
カノコビアの店内には、オリジナルブランドのクラフトビールに加えて世界から仕入れたワインが所狭しと並ぶ。オーナーはJSAシニアワインエキスパートの資格も持っていて、その知見がビール造りにも生かされている。
ヤマブキエールは紅茶、ゆず、山椒と、和の副原料をメインに使ったクラフトビール。エールビールに紅茶の甘みと山椒のぴりっとしたスパイスを効かせた、爽やかな味わいだ。
醸造を行っているのは、長野県にある地ビールの老舗、南信州ビール。「自分で考えたレシピを持っていって、醸造所で造ってもらっています。醸造は職人の技術が必要で、私にはハードルが高い。機械も難しそうで」と話すオーナー。人の手を借りられるところは思い切ってお任せしながら、こだわるところはとことんこだわる。副原料に使うスパイスのブレンドは、譲れないこだわりの一つだ。
「最初はジャパニーズエールを作ろうと思って、緑茶と合わせられるといいなと考えていたんです。でも、色々な副原料を漬け込んでみて、紅茶、緑茶、ウーロン茶と試す中で断然おいしかったのが紅茶でした。そうして10種類以上のスパイスを、組み合わせや割合を変えて試行錯誤しながら完成させています」
最近は農業にも関心を寄せているという。いつかは有機栽培で、自分が育てたブドウからワインを作りたいそうだ。かのこビアの新作はワインかもしれないし、自分で手がけたスパイスを使ったオリジナルビールかもしれない。オーナーの探求は続く。