味の輪郭は、素材の純粋さで際立つ

「ビールには大麦、ホップ、水の3つの原料以外を使用してはならない」。1516年、バイエルン公国のヴィルヘルム4世が、そんなお触れを出した。この法律の名は「ビール純粋令」。現在でも有効な食品の品質保証にまつわる法律では最古と言われているものだ。

法律の背景には、当時のバイエルンでは大麦に他の穀物を混ぜることが多く、品質が安定しなかったこと、小麦やライ麦を食料として確保したかったことなど、さまざまな事情があった。しかし、このビール純粋令は時代を経る中で、ブルワーを縛るものからドイツビールにとっての誇りになっていく。副原料などを入れずに基本的な材料だけでおいしいビールを造れることは、高い醸造技術と優れた品質の証となっていった。

ビール純粋令にのっとったビールを造ることは、アメリカや日本でも多い。調布ビアワークスのビールブランドSt.Robinsonの「マリア」も、大麦、ホップ、水だけで造られたクラフトビール。そこにあるのは、料理人としての顔を持つオーナーのこだわり。味付けがシンプルなほど素材の味がわかるように、限られた材料で仕込んだビールほど味の輪郭が際立つのだ。

調布ビアワークスのオーナーは、20代前半の頃はスキーのモーグル選手だった。27歳で飲食業に転身し、調布市内や苗場スキー場などに自分の店を出店。料理人として磨き続けた腕とセンスは、ビアバー「ジャクソンホール」の料理や、調布ビアワークスのクラフトビール造りでも発揮されている。

2015年の醸造開始以来、ほぼ毎週という精力的なペースでオリジナルビールを造り続けてきた。中には副原料を使った季節に合わせたビールや、ビールのオリンピックと言われる「World Beer Cup」で金賞を取ることを目指しているものも。アイデアがとめどなく溢れ出すエネルギッシュなオーナーだが、St.Robinsonの数少ない定番である「マリア」には、特に思い入れが強いという。

マリアはESB(エクストラ・スペシャル・ビター)というスタイルのビール。ESBを造っているのは、オーナーが1999年にはじめて飲んだクラフトビールがESBだったためだ。以来、さまざまなESBを研究しながら、St.Robinsonならではの味を追い続けている。

「St.Robinsonの定番は、ESBのマリアのほかにハウスIPAのアデル、ジュニパーベリーIPAのルシア、シーズナルビールのテオドラの4種類。アデルとルシアは改良点が見つからない完成形に至ったけど、マリアはまだ伸びしろがあります。何かが足りないのはわかる、ただ何が足りないかがわからない。その試行錯誤が楽しい」

オーナーはこれからも、足りないものを探し続ける。クラフトビール造りは、ストイックに自分の理想を追い求める旅でもあるのだ。

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