クラフトビールはオリジナリティにあふれたラベルやネーミングの面白さも楽しみの一つ。その先駆けとなったのが、アメリカ、ニューヨークを代表するクラフトブルワリーのブルックリンラガーだ。当時、まだ無名だったブルックリンラガーは、「I♡NY」のロゴでおなじみのデザイナー、ミルトン・グレイザーにロゴを依頼。「ビールの泡が立っているみたいに!」というイメージで作られたBのロゴで、一躍人気のビールになった。ちなみに、グレイザーはこのデザイン料を受け取らず「株の一部と、一生涯ビールを飲ませてくれればお金はいらない」と言ったのだとか。
10ants Brewingのビールも、ラベルや名前に注目したい。看板ビールは青いラベルが印象的な「THE Fourth Dimension Blue Label」。10antsのビールはどれもアニメのキャラクターをモチーフにしているという。
「THE Fourth Dimension」は、日本語に訳すと「四次元」。そして「青色」のラベル。ちなみに弟分、いや妹分のようなイエローラベルもある。さらに他のビールの名前は「No Bitter」「I'M G」……ラベルにはヒントも隠されているので、じっくり見てみよう。気づけば、もっと飲むのが楽しくなるはずだ。
「10antsといえばこれ! という代表作です」
オーナーがそう話す、「THE Fourth Dimension Blue Label」。キャラクターの性格や見た目から連想される味わいをビールに込めたそうで、濁りのある、強い香りが特徴のセッションIPAだ。
アニメのキャラクターをビール化するというユニークな試みをしている10ants、理念には「固定観念からの解放」を掲げている。「日本では『とりあえずビール』という感覚がまだまだ根強い。でも、じっくり飲みたいものや食事と合わせたいものなど、ビールはいろんなシーンで楽しめる。アニメキャラクターをモチーフにしているのも、まだ現実にないものを現実に解放したいという思いなんです」
「THE Fourth Dimension Blue Label」のモチーフは、あったらいいなと思う秘密の道具をたくさん出すことでおなじみのキャラクター。その意味でも、10antsの理念にはぴったりだ。そんなオーナーに、「あなたにとってクラフトビールとは?」と聞いてみたところ、こんな回答が返ってきた。
「クラフトビールの定義はとても曖昧です。クラフトマンシップをもって造られたビールをクラフトビールと呼ぶなら、世の中のビールはすべてクラフトビールと言えるはず。設備の規模にかかわらず、その醸造技術や製品管理はどれも職人技。クラフトビールという言葉がなくなって、〈ビール〉と広く認知されてほしいですね」
クラフトビールという言葉も、ある意味では固定観念を生み出すものかもしれない。固定観念のその先へ進むため、10antsはビールを造り続ける。