いつの時代も、音楽とビールは切っても切れない関係だ。飲みながら打ち解けた雰囲気で仲間が集まって演奏するパブ・セッションのような文化もあるし、音楽フェスではビールが根強い人気を誇る。クラシックの音楽家にも、ビール好きが多かったという。たとえば、モーツァルトが友人に宛てた手紙には、こんな一節がある。
「ビールが手に入りましたら、また少し分けてください。ご存知のように、ビールを飲むのが大好きなものですから」
モーツァルトはお酒の中でもビールが大好きで、いつもビアホールにいたという記録が残っている。それからドイツの作曲家ベートーヴェンも、ビール好きで知られる一人だ。
「革命が勃発するのではないかと噂されています。しかし、オーストリア人は黒ビールとソーセージがあるうちは革命を起こしはしないと私は信じております」
これはベートーヴェンがウィーンから、故郷のドイツ・ボンにいる友人に送った手紙の一節。政治や社会に関心を寄せていたベートーヴェンはいつもカフェでビールを飲みながら新聞を読み耽っていたそう。この手紙からも、社会情勢への敏感さとビールへの愛情が読み取れる。
KUNITACHI BREWERYのヘッドブルワーもかつては音楽家を志していて、現在もDJとして活動している。看板ビール「1926」をはじめ、「るつぼヘイジー」「世界は点滅するモザイク模様のように」と、ビールの名前は曲のタイトルのよう。ラベルもまるでCDのアートワークだ。
ヘッドブルワーによれば、ブルワーには音楽経験者が多いという。ビールも音楽も、大切なのはアーツ&サイエンス。芸術性と専門知の両方があってこそ、至高の作品が生まれるのだ。
音楽家として活動していたヘッドブルワーは、もともとお酒が飲めなかったという。それがある時、雅楽の演奏家と知り合う中で日本酒が好きになり、自分でアルコール度数1%未満の日本酒を造ってみようと思い立つ。それから醸造への興味が強くなり、ビールを造るようになった。ビールを造ろうと思ったきっかけを聞いてみると、「音楽のように多様であることや、表現の幅の広さに惹かれた」と答えてくれた。
看板ビールの「1926」は、優しい麦の風味と、レモンや青りんご、アプリコットのような爽やかでほのかに甘い繊細な香りが特徴のビール。名前の由来は、旧国立駅舎の竣工年に由来している。
「国立の人たちに親しまれるような、この街をイメージしたビールを造りたいと思いました。国立には、古い地域と新しい地域が並立しています。1926のビアスタイルであるKolsch Styleは、伝統的でありながら新しさを見出すことができるスタイル。その類似性からこの名前をつけたんです」
1926のラベルに描かれている三角屋根の旧駅舎は、開発工事のために一度は解体されたものの、2020年に現在の国立駅前に建て直された。懐かしさを感じる旧駅舎の雰囲気は、1926の優しい味わいにぴったり。「駅のあたりを散歩しながら、当時の国立と今の国立のつながりを想像して飲んでほしいです」と、ヘッドブルワーは微笑む。