パブはみんなのための場所

言葉をたどると、ルーツが見えてくる。「ビール」という言葉の語源は、ラテン語のビベール(bibere)という説が有力だ。ビベールとは、「飲む、飲み物」という意味。そう聞くと、なんだかビールがすべての飲み物の代表のように思えてくるが、これはあながち間違いではない。衛生環境が整っていなかった昔は、生水を飲むよりもビールに加工して飲む方が安全だと考えられていたからだ。

ビアパブの「パブ」も、もとをたどればパブリック(public)の略だと言われ、お酒を飲むというより社交の場という側面が大きかったそう。大人の酒飲みだけじゃない、みんなのための場所なのだ。

二子玉川にあるふたこビール醸造所は、まさにそんなひらけた空間を目指したブリューパブ。フラッグシップビールのフタコエールは、上品な香りで誰でも飲みやすい。活気のある店内では、老若男女がビールを手に語り合っていた。家族連れでの来店も多いそうだ。ビールのある風景に、豊かな泡と笑い声が弾ける。

ふたこビール醸造所のロゴは、「麦」の字が二つ並んだデザイン。社名のふたこ麦麦公社にちなんだものだが、人と人が寄り添っているようにも見える。

「ビールを作るためにたくさんのブルワリーやビアバーをまわる中で、ビールは単なる飲み物ではなく、コミュニケーションのツールなんだと実感しました。初対面同士でもすぐに打ち解けられる、そんな魅力があると思っています」

代表の市原さんの言葉の通り、ふたこビール醸造所は「ビールで人をつなぐこと」に重きを置いている。たとえば、地域の人にホップを育ててもらう「世田谷ホッププロジェクト」。庭やベランダのプランターでも育てられるホップの苗を配布して、地域の人に収穫してもらう。それを集めて、生ホップ仕込みのビールを毎年作っているのだ。街に広がるホップの緑色の景色や、育てたホップを使ったビールを味わう収穫祭を通して、出会いが生まれ、コミュニティが広がっていく。また、麦茶用の六条大麦を栽培する「麦茶プロジェクト」など、お酒が飲めない人の存在も忘れない。

「ビールを醸造するという意味のブリュー(brew)という言葉には、混ざり合う、企む、といった意味もあるんです。ふたこビール醸造所も、面白いことをたくさん企む地域のコミュニティーの場でありたいと思っています」

Next Contents

Select language