旧門司三井倶楽部には、近隣の人々が揃って口にする「門司港レトロ」をそのまま体現したような雰囲気が漂う。美しい外観はもちろんのこと、世界的に有名なアインシュタインがここに夫婦で滞在したこともあるというのも大きいだろう。活動的に門司の滞在を楽しんだアインシュタインは、正月に自ら餅をつき、周囲の人たちを驚かせたという。まだ日本に外国人がいること自体が珍しかった時代である。日本文化を満喫する彼の姿は、どれほど新鮮だっただろう。
そしてまた、戦前生まれの人にとっては、旧門司三井倶楽部は昔を想起する場所でもある。戦死した兄が昔ここに務めていたという高齢の女性が訪れ、なつかしさに目を細めたこともあるという。彼女だけではない。戦前の門司港を知っているたくさんの人が、変わらない旧門司倶楽部の前を通るたびに愛しそうに見つめるのだ。
彼らの思い出は、旧門司倶楽部を通して次世代、そのまた次世代へと語り継がれていくだろう。