広島に投下された原子爆弾の爆心地には、小さな石碑が建てられている。観光客たちのなかには、ここまで足を運ぶ人も少ないかもしれない。ただ僕は、この石碑を背負うようにして建つ『島病院』という名の病院の物語を聞いて、足を止めずにはいられなかった。
実は1930年代からこの地で営業を続けてきた島病院。1945年8月、上空600mで爆発した原子爆弾の威力により、一度は病院も更地になった。そのとき、偶然別の町の診療所に出向いていたために助かった医師は、町に戻って被爆者たちへの治療に従事。戦後から数年のうちには、数の少ない資材を使い、全く同じ土地に再び病院を建てたという。
戦後に描かれた島病院の医師の回想録のなかには、「私の新しい病院は平和と貧しき者、窮乏したる者を世話することにささげられている」と書かれている。偶然助かった命を、地域の人々に捧げる。剛気な医師だったに違いない。