そばから戸隠の風土を感じる

標高が高く寒冷な土地は、米作りに適さない代わり、品質の良いそばが穫れる。特に昼と夜の寒暖差が大きく、朝霧がかかるような場所は、そばの名産地になるという。朝霧がそばの実を霜から守り、涼しい気候がそばの香りを強めるためだ。戸隠は、まさにそんな土地。戸隠そばがおいしい理由の一つだ。

そばは修験道とも深い関わりがある。平安時代、この地で厳しい修行に励んでいた修験者たちは、携帯食としてそばをよく食べた。そば粉を水で溶いただけの質素なものだったが、身近な食べ物だったことはたしかなようだ。修行中は米、麦、粟、稗、豆の五穀を食べないが、そばはこれに含まれないことも関係していた。細長く切ったいわゆる「そば切り」が食されるようになったのは江戸時代のこと。当初は神仏へのお供えや、高貴な人物のためのハレの料理だったが、次第に庶民にも浸透していった。

戸隠そばの盛り方は、「ぼっち盛り」と呼ばれる独特なもの。少量ずつまとめて盛り、地元産の根曲がり竹で編んだざるに並べるのだが、「ぼっち」の数は現在では5つが一般的。一説では、戸隠神社が五社あることに由来すると言われている。

茹で上げたそばは、あまり水切りせずにざるへと盛り付ける。つるっとしたみずみずしい喉越しを味わうためだ。それは、豊富でおいしい水に恵まれた戸隠だからこその味。戸隠そばには、地域の風土が詰まっていると言えるだろう。

Next Contents

Select language