その社殿は信仰の歴史を留める

270段の急な石段を上ると、風格のある社殿が見えてくる。まずは手水舎の冷たい水で手と口を清め、ご祭神に参拝しよう。

鳳凰や麒麟など、数々の神獣が彫られた社殿。江戸時代末期の建築で、五社の中でもっとも歴史ある建築物だ。どこか善光寺にも似ているが、それはここがかつてお寺だったため。昔は、神と仏が混在しながら信仰の対象とされていた。戸隠神社は「顕光寺」という寺で、宝光社はその中の宝光院という寺院だった。

宝光社の設立には、こんな言い伝えがある。戸隠山の奥社ができてから200年後、この場所に突如光り輝く物体が現れた。人々が集まると、そこにあったのは神の姿を刻んだ鏡。なぜこんなものがここにあるのか、人々が不思議に思っていると、一人の少女がいきなり苦しみ出し、いつもとは違った雰囲気で語りはじめた。

「私は仏様の使いです。あの地が結界の地となっているのは仏様の思いに反する。ここにお堂を建て、私を祀りなさい」

奥社の近辺は当時、女人禁制とされ、女性が立ち入ることができなかった。使いは少女の体を借りて、そのことを伝えようとしていたのだ。目の前で起こっていることが信じられず、一人の村民がおそるおそる口を開く。

「本当に仏様の使いであれば、ここにいる僧の袂にお移りください」

すると、そこにいたお坊さんの袖に何かが飛び移った。見てみると、袖には仏様の像が入っていた。人々はすぐに寺院を建て、この仏様を祀ったという。

宝光社の現在の祭神は、天の岩戸伝説に登場する神様。現在の戸隠では、この天の岩戸伝説が信仰の中心になっている。物語を知るため、まずは先へと進もう。

Next Contents

Select language