鳥居をくぐってすぐ左手には、小さな祠がある。祀られているのは、水を司る龍王様。戸隠神社の近くにある「種池」の主だ。この種池は流れ込む川もないのに水が絶えず、かつてはここで汲んだ水を自分の村の田んぼに撒くと、たちまち雨が降ると信じられていた。
言い伝えでは、村への帰り道、この池で汲んだ水を入れた樽を持った者は話すことも、樽を地面に置くことも一切禁じられていた。禁を破れば、霊験は得られなかったという。そんな厳しい条件でも、日照りに悩んだ農民たちの代表がよく訪ねてきたと伝わる。
この先にある九頭龍社も、同じく水を司る神を祀っている。ただ、この龍王とは別の存在だという。この祠がここにある理由ははっきりとはわかっていない。だが、この祠も九頭龍社も、戸隠で水が信仰されていたことを示している。