門前町は、土蔵造りの建物が立ち並ぶ風情ある街並み。土蔵が多く残っているのは、江戸時代の末期に起きた善光寺地震と関係がある。
善光寺がもっともにぎわう御開帳の時期だった。その日は春の盛りで夜もあたたかく、各地からやってきた参拝客であふれかえっていた。店々も遅くまで営業を続け、誰もが楽しい気分でいた。
ところが10時ごろ、突然大地が激しく揺れはじめた。その日お参りをしていたある男は、この時のことをこう記録している。
数万の灯りが一度に消え、起き上がることもできないまま何メートルも前後左右に押しやられた。その間、無数の雷が一度に落ちたような地響きが鳴り続けた。気づいた時には街じゅうで火の手が上がり、あたり一面は火の海に。家の様子が心配だけれど、どうすることもできない。避難しようと山を登ると、宿で風呂に入っている最中に地震に遭い、ほとんど裸のままの女がいた。それほどまでに、誰もが動揺していた。
門前町は、3日にわたって燃え続けた。誰もが家財を守ることに必死で、なかなか消火が進まなかったのだ。この時のことを、善光寺の人たちは悔やんだ。そこで街を復興する際には、家財を守れるよう、地震にも火事にも強い土蔵を建てたのだという。