現在は郵便局として使われている建物は、もともとは五明館という老舗旅館だった。五明館の当主は代々町年寄を務め、庄屋・問屋も営んだ。ここには昔、宿が立ち並んでおり、さらに少し先には、善光寺参りにやってきた人々のための宿坊があったそうだ。ここでは、お参りに来た庶民たちが宿坊でどう過ごしたのかをのぞいてみよう。
長旅を終えて善光寺にやってきた参拝者たちは、まず案内所へ向かった。そこで、今夜泊まる場所を教えてもらうのだ。案内人に導かれて宿坊に着くと、部屋がきれいに整えられ、タバコと熱い風呂が用意されている。笑顔で迎えてくれるのは、宿坊を管理する寺の住職。「阿弥陀様への捧げ物はどうなさいますか」「ありがたいハンコのお守りはいりますか」。旅の無事をねぎらい、そうもてなしてくれる。
丁寧なもてなしに、参拝者たちはいい気分。おいしい夕食に舌鼓を打ち、風呂でゆっくり疲れを癒す。そうして日が暮れると、部屋に案内人がやってくる。「どうぞ、参拝なさってください」。その言葉を合図に、参拝者たちは「おこもり」へと向かうのだ。噂に聞いた善光寺参り、一体どんな体験なのだろう。期待に胸を膨らませ、参拝者は一組、また一組と善光寺へ吸い込まれていく。そうしてみんな宿から出てしまうと、このあたりはしいんと静かになったそうだ。