石畳にまつわる親子の物語

本堂に続く境内の敷石は、7777枚あるという。この石畳には、こんな物語が伝わっている。

昔、江戸に商売で大金持ちになったある男がいた。その男には息子がいたが、どうにもこれが放蕩息子。酒に女に賭け事に、いつも遊びまわってばかりいたそうだ。愛想をつかした男は、とうとう息子を家から追い出した。息子はそれでも遊び続けて、気づくともう金がない。そこである夜、こっそり自分の家へと忍び込んだ。

眠っていた男は、怪しい物音に気づいて目を覚ます。泥棒だろうか。飛び起きた男は槍を手に、暗闇の中、音のする方へ歩いていった。狙いを定めて槍を突くと、たしかな手応えとともに悲鳴が上がる。曲者の顔を見てやろうと明かりを灯すと、倒れていたのはわが息子だった。

男は、自分の行いをひどく後悔した。同時に、悲しい最後を迎えた息子を哀れに思った。罪をつぐない、息子の魂を弔いたい。そうして男が訪れたのが、善光寺だった。

その日は冷たい雨が降り、土の参道はひどくぬかるんでいたという。歩きづらそうにしている参拝者を見て、男はここに敷石を寄付することを思いついた。この行いを、息子への供養にしたのだ。

視線を上げれば、先に見えるのは大きな仁王門。左手には善光寺の運営を担う寺の一つである大本願が、右手には参拝者が泊まる歴史ある宿坊がある。石畳を踏みしめて歩けば、本堂はもうすぐだ。

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