仏教弾圧に抵抗し続けた女性住職

善光寺は、大本願と大勧進という異なる宗派のお寺が運営を担っている。大本願は善光寺の創建当初からあるお寺で、代々の住職を務めるのは公家出身の女性。女人禁制の風習が根強かった仏教において、女性が重要な役割を担い続けているのはとても珍しい。

大本願の歴代の住職は120代を超える。令和時代の天皇が126代だと考えると、その歴史の長さがわかるだろう。これまでに数々の偉大な住職がいたが、中でも特に伝わっているのが、明治初期の住職だ。江戸時代までは神も仏も一体のものとして祀られていたが、明治政府は神道の権威を強めるため、全国に神と仏を明確に分離するようにお触れを出した。このことが、仏教の排除運動につながる。お寺や仏像が壊され、お坊さんが拠り所を失う中で、公家出身の人間には「皇族復帰令」という命令が出された。出家してお坊さんになっていた者は、皇族に戻れというのだ。

大本願の住職にも、この命令は届いた。しかし彼女は、決して従おうとはしなかった。この時、彼女が言い放った言葉が今も語り継がれている。

「剃刀で剃った髪はいかようにも伸びるでしょうが、一度剃ってしまったこの気持ちはどうすればもとに戻るでしょう。身につけた衣は脱ぐことができても、心につけた衣は脱ぐことができません」。

仏教を心の拠り所にする庶民の抵抗もあり、やがて排除運動は収まっていった。嵐のような厳しい時代だったが、住職が信念を貫いたことで、大本願は、そして善光寺は存続し続けたのだ。

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