奈良町を訪れて猿沢池の采女伝説を耳にした人は多いだろう。その物語をもとにした能の演目に「采女」がある。あらすじは、奈良を旅するお坊さんが一人の女と出会う。その女は猿沢池を案内しながら、昔、天皇に寵愛されながらも、愛情が薄れていった悲しみから池に入水した采女伝説を語る。そして、自分がその采女の幽霊であること告げて池の底へと消えていく。お坊さんが池に向かってお経を読むと、美しい姿をした采女があらわれ、月光の中、当時のことを思い出しながら舞い続ける。そうして本来の心を取り戻した采女は再び池の底へと消えていくという話である。そのことを知ってこの書と向き合ってみると見えるものが変化するかもしれない。なにせ、この部屋は采女神社の真上といってもよい場所にあるのだから。