小野川直樹にとって「折り紙」は、祖母との思い出の象徴でもある。小さな頃はよく祖母とおはじきやあやとりなどで遊び、一枚の紙からいろんな形が作り出せる折り紙に、特に夢中になったそうだ。
幼い頃から身近にあった折り紙が彼の心の内を表現する素材となり、今のような作品を産み出すきっかけとなったのは、2011年に起こった東日本大震災だった。
小野川は、震災の翌年に岩手県陸前高田市へ足を運んだ。実際に町を見てまわり、現地の方の話に耳を傾ける中で、人種も性別も社会的地位も関係なく襲ってくる自然の前では、人間は何もできないのだという恐ろしさを感じた。それと同時に、その中で輝く生命の力強さも受けたという。人々はいつの時代も自然の脅威と向き合い、時にあやかり、共存しているのだと。この体験は「今を生きている」ということをハッキリと意識する出来事となった。
この町で時間を過ごす中で、津波に流された校舎の瓦礫脇に置かれた千羽鶴を見た。それはまるで行き場のない気持ちを折り鶴に託し、この世ではない場所を行き来するようにと祈りを込めた独特な儀式の様に感じたという。
折り鶴に込められた「祈り」。そこから感じたものから産み出された、最初の作品「鶴の樹」。葉の部分は毎日10時間以上かけて作られ、一万羽となった折り鶴に付け替えられた。それは雪が木の枝に降り積もり、美しくたたずむ風景にも見えてくる。
1階には、彼自身の「折り鶴との歩み」を落とし込んだ映像作品が流れている。このフロアを充分に堪能したら、次は2階に進もう。