昭和天皇の結婚を祝って、台湾に住んでいた日本人有志が贈ったもの。水の上に建つ休憩所として、夏の散歩中に涼をとる場所として設計された。台湾の建築様式が取りいれられ、建築の木材にも「台湾杉」を使っている。その台湾杉が自然に生えている姿も、建物を囲む林の中で目にすることができるだろう。外観を眺めても絵になるが、注目すべきは旧御涼亭の中から眺める日本庭園。濡縁の手すりや折戸、欄間の装飾ごしに見る風景は、映画のスクリーンに映し出されているようである。
まるで映画のスクリーンのよう。そう思って眺めていると、風景が物語的に見えてくる。たとえば、庭園にいる登場人物たち。そのひとりひとりの物語を空想してみよう。恋人と別れたばかりの人。仕事を辞めようと考えている人。彼は、彼女は、なぜ新宿御苑にいるのか。それひとつとっても物語がある。もしかすると、自分と同じ理由でここにいる人だっているかもしれない。この日、この時間、この場所に居あわせたこと自体が奇跡。そもそも、いま視界に入ったり、すれ違ったりしている人たちは、ほんとうに「はじめて見る人」なのだろうか。もしかすると、ひとりくらいには出会ったことがあるのかもしれない。道端で、電車で、絶えず人はすれ違いながら生きている。奇跡の再会は、奇跡というには割合として多すぎるのだから。