遠藤五郎(トゥラン・サモール)さん
1945 年、プノンペン生まれ/埼玉県在住
クメール・ルージュ体制崩壊後、サモールは家族の消息をたずねようと、タイ・カンボジア国境にあった難民キャンプを訪れ、カオイダン・キャンプ(1979年11月にタイ、プラーチーンブリー県(現サケーオ県)に開設され、1993年に閉鎖 )に行った。
彼はそこでいとこのひとりに出会い、自分の家族についてたずねた。しかし、「サモールの家族はみんな亡くなってしまった」といとこに伝えられた。彼はあきらめることなく、きょうだいについての消息が何かわかれば、日本にいる自分に連絡してくれるように、そこで働いていた日本人のボランティアグループに託した。
後に、義理の甥姪にあたる人から手紙が届き、3番目の兄であるトゥラーン・ソパーがカンボジアで生きているという知らせがあった。日本からカオイダン・キャンプへ返信し、兄が日本で生活できるように自分が呼び寄せる旨の手紙をカンボジアで暮らす兄へ届けてくれるように言付けた。
その手紙はブローカーを通じて、しっかりと兄の元へ届けられた。その送料は10万円だった。手紙を受け取ってまもなく、兄も来日に同意する旨の返事を寄越してきた。そこでサモールは兄と義姉、ひとりの甥の呼び寄せを保証するための各種書類を準備した。
自分の両親と兄、姉を失うという壮絶な悲しみにサモールは安らかではなかった。日本で暮らすように呼び寄せることができたのは、兄ひとりだけだったのだ。兄弟ふたり互いに助け合った。
1982年に再会した時、兄は妻と息子といっしょに家族で来日した。サモールは、日本にいても家族がいるように思えた。しかし、ふたりは別々の街で暮らすことになり、サモールは埼玉県、彼の兄は神奈川県で暮らした。2004年、兄は亡くなった。