「驚くほどうまくいったな」

幸先の良い展開に、義経は心の中でほくそ笑んだ。振り返れば嵐の夜、大阪の港で義経が船を出すぞと命令したとき、多くの臣下がいぶかしみ、中には反対する者もいた。しかし義経が反対を押し切って船を出すと、嵐が追い風となり、たった数時間で四国に上陸。屋島に近づくことができた。

すべては義経の計画どおり。民家に火をつけて平家に大軍が攻めてきたと錯覚させ、敵の想定とは反対の南側から攻め込む。海に隔たれた屋島に上陸するために義経は潮の満ち引きも考えていた。潮が引いて浅瀬になったときを見計らい、先に牛を走らせ水深の深い部分を避けながら、馬に乗った源氏は屋島へ。水しぶきとともにいよいよ戦闘が始まった。

このとき、義経はすべてがうまくいったことで油断していたのかもしれない。平家には弓の名手がいて、一瞬の隙をつき義経に向かって矢を放つ。

「義経様!」

狙われたことに気づかない義経の前にひとりの男が走り寄った。義経の臣下、佐藤継信である。義経の身代わりとなり致命傷を負った継信を義経が抱きしめると、継信は「主君の身代わりになれた。これほどの誉れはございません」と言い残して息たえた。

***

その「誉れ」という言葉に誤りはなかった。継信の墓は、約800年後のいまも屋島に存在しているのだから。

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